虹の翼/吉村昭

明治時代に航空機の研究をした二宮忠八が主人公。幼い頃から凧作りと絵の才能に長けた忠八は学業にも秀で、塾では飛び級扱い。 商家に生まれるが、長兄と次兄による放蕩で事業が失敗。家は破産し、忠八は中学に進学せずに呉服店に奉公に出る。

奉公先で子守ばかりの生活に膿んだ忠八は再び凧作りに熱を上げるようになった。写真館の助手や薬種商、測量などの仕事を渡り歩き、ある日の新聞記事で軽気球の存在を知り興奮する。忠八は気球を模した凧をあげ、舞った凧からチラシを蒔くカラクリを研究するが、このあたりは読んでいて実に楽しげだ。 続きを読む

彰義隊/吉村昭

鳥羽・伏見の戦いに敗れ、さらには薩長の策略で朝敵となってしまった将軍・徳川慶喜。薩長を参謀とする朝廷軍は江戸への進撃の構えを見せるが、慶喜は江戸を戦火から守るべく朝廷軍に対して恭順策を取る。しかし、江戸を武力で制圧したい朝廷軍は慶喜の恭順を受け入れようとしない。

慶喜の恭順策を成就させるべく朝廷軍との交渉に挑むのは東叡山寛永寺山主・輪王寺宮だ。そしてその宮を警護するのが幕府への忠誠心が厚い彰義隊。物語の序盤は彰義隊結成の経緯から敗戦までが主に描かれているが、中盤以降は輪王寺宮の動向が主に描かれている。 続きを読む

大本営が震えた日/吉村昭

太平洋戦争前夜、ハワイとマレーを同時に奇襲する準備を極秘裏に進める日本軍。偽装・情報操作を行いながらの作戦だが、日本軍の最高機密書類を積んだ「上海号」が敵地に不時着することで大本営に緊張が走る。

不時着を知った軍営の焦燥ぶりや、墜落した機体から抜け出し敵地を彷徨う日本兵たちの行動など、その書類の重要度が嫌でも伝わる作品だ。 続きを読む

ふぉん・しいほるとの娘/吉村昭

楠本イネ。その生涯はWikipediaを参照されたい。記録文学で知られる吉村昭の作品となれば尚の事、作品のあらすじとほぼ同様だ。しかしこれは小説。略歴の行間には登場人物たちの血が通う。

タイトルに「シーボルトの娘」とあるが、前半はその母親の存在が際立っている。シーボルトの馴染みの遊女であったらしいが、目を見張るような美人として描かれている。異国人のお抱え遊女である事に対する世間への憚りがある一方、ある程度身分のある男に見初められた安心感を垣間見せる。 続きを読む

プリズンの満月/吉村昭

終戦直後、米軍監視の下で刑務官を努めていた人物の眼を通して当時の戦犯収容所の様子がつぶさに描かれている作品。

定年退職後の主人公が刑務官時代を回想するところから物語が始まる。当時の不安定な社会情勢のなか、各地の刑務所で見られる受刑者たちの荒れた様子が心苦しい。 続きを読む