冬の鷹/吉村昭

オランダの医学書・「ターヘルアナトミア」の和訳を手がけた前野良沢を描いた小説。

医業を生業とする良沢がオランダ語に興味を持ち、47歳で長崎に遊学。しかし、初めて目にするオランダ書の横文字に圧倒され途方に暮れた。後に江戸へ戻った良沢は、杉田玄白らと共に処刑場へ足を運び、死体解剖を見学することで、ターヘルアナトミアに示された人体図の正確さに驚愕した。そして良沢らは和訳に強い使命感を抱いた。 続きを読む

間宮林蔵/吉村昭

樺太は清国領の地続きで半島である、という諸外国の定説を覆し、世界で初めて樺太が島であることを実証した江戸後期の探検家・間宮林蔵の生涯を描いた小説。

少年時代に堰切り、堰き止め工事に興味を持っていた林蔵はやがて堰工事の役人に声をかけられ、測量、地図作成などを手伝うようになった。やがて役人になった林蔵は幕命を受け樺太へ向う。当時、樺太南部はすでに調査済みだったが、北部は謎の地域とされ世界地図にも記されていなかった。 続きを読む

長英逃亡/吉村昭

高野長英。鎖国を批判し投獄されたが、約五年後に脱獄に成功。その後の長英の逃亡生活を克明に描いた小説。

オランダ書の和訳に人生をかけた長英の情熱は、獄中でも消えることがなかった。脱獄を決意した長英は、計画的放火に伴い脱獄に成功。極度の緊張感の中での逃亡生活で、長英は心身ともに疲労を極めるが、オランダ兵書を和訳したい、という思いだけが彼を支えていた。 続きを読む

アメリカ彦蔵/吉村昭

少年、彦太郎(のちの彦蔵)が船乗りになり海に出るが、航海中に船が遭難。漂流生活を送る中、異国船に遭遇し、米国船・オークランド号に助けられ渡米。

船内や米国で思わぬ厚待遇をうけた。やがてカトリック教徒になるが、日本はキリスト教禁制下であったため、米国に帰化してからアメリカ人として日本に帰国した。 続きを読む

黒船/吉村昭

主人公・堀達之助は通詞という、現代で言うところの通訳や翻訳を手がける職能人の一人だった。ペリー来航時には主席通詞として交渉の場に臨んだが、両国の激しい主張を直訳する事をためらい、僅かに表現を和らげてしまうあたりに通詞の泣き所を垣間見た。

重責を果たした堀だったが、その後の人生は決して華やかなものではなかった。国政に反した廉で投獄されたのだ。奉行宛に外国人から受け取った文書を読んだ堀は、体裁、内容共にそれを公の文書として見なさず、自らの判断で自宅に保管したのだが、それを咎められた。 続きを読む