道誉なり/北方謙三

室町時代の「ばさら」、佐々木道誉が主人公。その「ばさら」というのがどう言う者を指しているか良くわからないが、作品中の道誉の言葉を借りれば、己が生を毀すことのみを考えて生きる男をそう呼ぶらしい。しかし、そうかと言って単純に滅びの美学を追求していたわけでもなさそうだ。

作品中、主人公が最も多く交流するのが足利尊氏だ。尊氏は天下をほぼ掌握していたが、道誉はそんな尊氏を歯牙にもかけていなかった。道誉には、権力者など何程の者かと思う節があるようだ。 続きを読む

波王の秋/北方謙三

南朝も北朝もない。海で生きる男たちが活躍する冒険小説だ。

物語の性格上、見せ場が海戦に依るところが多かったが、水軍の構成とそれぞれの目的はこうだ。済州島のナミノオオ水軍は元と高麗の二重支配から逃れ独立を目指し、上松浦党水軍は第3の元寇を未然に防ぎ海を守る。そして群一族。彼らは元寇の際、相手の前に最初に立ち塞がり捨て身で元軍の力を削いだが、その後は消息を絶ち一族でひっそりと暮らしていた。彼らにとってもまた、海がすべてだったのだ。それら3つの勢力が一つとなり、強大な元朝を倒さんと戦いを挑む。 続きを読む

武王の門/北方謙三

足利幕府の勢力が全国を席巻しつつあり、その力は九州にまで及ぼうとしていた。九州探題を置いた幕府だが、反対勢力たちの存在もままならなかった。牧宮(懐良)が率いる征西軍(南朝)もその反対勢力の一つだ。

九州を統一し、足利幕府とはまったく違う新しい国を造ること。それが懐良の夢だった。九州入りするまでの展開は比較的緩やかだが、後に無双の強さを誇る武将へと成長する菊地武光の登場により物語が加速する。 続きを読む

破軍の星/北方謙三

舞台は鎌倉幕府崩壊後の東北地方。北条の残党らを抑え、奥州を平定すべく陸奥守に任命されたのが本書の主人公、北畠顕家だ。この時、若干16歳。

父・北畠親房の教育により高度な学問を身につけた顕家だったが、陸奥守就任後は武人としての活躍がほとんどだ。時に上洛し、尊氏を始めとする足利勢を何度と無く打ち破り、一度は九州にまで追いやった。経験や軍学を超えた天賦のものが、顕家には備わっていた。彼の人生を象徴すべく、本書には数多くの戦闘が描かれているが、著者は騎馬隊の戦を描くのが得意のようだ。 続きを読む

杖下に死す/北方謙三

豪商や米商人に対して打ち毀しを行った事件として知られている大塩平八郎の乱。養子の格之助と主人公・光武利之の交流を軸に、決起に至るまでの世情が描かれている。

度重なる飢饉や米の売り惜しみ等で苦しむ市民を救わんと立ち上がった大塩平八郎。政治のあり方を世に問い掛ける意味で一石を投じたように思えたが、事件としての、あるいは平八郎自身のスケールはそれほどでもなかったようだ。しかし、本書で注目すべきは何よりも登場人物たちの男振りだ。 続きを読む