利休にたずねよ/山本兼一

茶道とはかくも奥深いものか。利休の執拗なまでの美への追求は単にお茶の味のみにあらず、茶室内の空間、茶碗の趣、さらには料理にいたる。これらは、わざとらしく工夫を凝らして相手に気付かれるようではあざとくて駄目なのだ。嫌味が無く、あくまで自然に茶を楽しむ空間作りをしなければならない。利休の繊細な審美眼のみが、その空間作りを可能にする。

例えば柄杓ひとつをとっても、茶室に飾る花一輪をとっても、利休はその道具の形状をミリ単で観察し、その選定に命を削っているかのようだ。その情熱の根源は作品を読み進めていく過程で徐々に明らかにされるのでここで詳細には触れないが、一言で言えば若い頃の衝撃的な恋に起因している。 続きを読む

甲賀忍法帖/山田風太郎

徳川家の三代将軍は竹千代か、それとも国千代か。長年の敵対関係にある伊賀と甲賀が徳川家の後継者を賭けた代理戦争に臨み、10人対10人の忍法勝負が繰り広げられる。

タイトルが忍法帖というぐらいだから、選ばれた20人が繰り出す忍法は極めて意外性に富んでおり、多分に娯楽的だ。が、これは儚い恋物語でもあるのだ。 続きを読む

官僚たちの夏/城山三郎

終戦から復興の兆しが見え始めた昭和が舞台。主人公は通産省で人事に心血を注ぐ風越信吾だ。

まるでトランプ占いをするかのように人事カードを使って理想の配置を考える風越だが、対象となる人物たちの表情を思い浮かべながら脳内で対話している様子に血の通った仕事ぶりを感じる。今後の日本の発展を担うであろうエリート達。扱う人間が優秀ならば力も入るだろう。 続きを読む

坂の上の雲/司馬遼太郎

主役は維新後の明治を駆け抜けた3人。

近代短歌・俳句を確立させた歌人正岡子規と秋山兄弟。日露戦争においてコサック騎兵団を破った兄の好古と、バルチック艦隊を破り日本艦隊を勝利に導いた弟の真之。また、二百三高地を巡る日露の攻防も必読あれ。 続きを読む

一夢庵風流記/隆慶一郎

戦国末期。奇をてらった行動を好む武辺者・前田慶次郎の人生を描いた小説。

期せずして、武家社会での立身出世の道を断たれた慶次郎。歴史の表舞台には全くと言っていいほど姿を現さない。彼の人格を紡ぎ出すための資料が少なかったせいか、著者自身による想像で作り上げられたであろう箇所がほとんどだが、それが読者にとっての幸運。著者によって命を吹き込まれた様々な逸話に笑い、泣き、そして興奮する。 続きを読む