間宮林蔵/吉村昭

樺太は清国領の地続きで半島である、という諸外国の定説を覆し、世界で初めて樺太が島であることを実証した江戸後期の探検家・間宮林蔵の生涯を描いた小説。

少年時代に堰切り、堰き止め工事に興味を持っていた林蔵はやがて堰工事の役人に声をかけられ、測量、地図作成などを手伝うようになった。やがて役人になった林蔵は幕命を受け樺太へ向う。当時、樺太南部はすでに調査済みだったが、北部は謎の地域とされ世界地図にも記されていなかった。 続きを読む

林蔵の貌/北方謙三

偉大な測量家としての顔を持つ林蔵。だが一方では幕府の諜報員的な顔も併せ持っていた。幕府、水戸、薩摩、ロシア、そして名高い海運業者・高田屋嘉兵衛が蝦夷地の利権を巡り暗闘を繰り広げる。小説ならではの壮大な構成だ。しかし、時折それが事実だったのではないかと思わせる箇所が見受けられた。

物語は蝦夷地を舞台に展開していくが、当時の蝦夷地は幕府にとって微妙な土地だった。管理があいまいだったのだ。 続きを読む

あかね空/山本一力

江戸の深川を舞台に生きる豆腐職人一家を描いた人情味溢れる小説。

主人公・永吉は京都の老舗豆腐屋で修業を積んだ後に、江戸は深川の長屋に移り住む。その後近所の人々からの手助けを受け、豆腐屋を開業。しかし、京風の柔らかい絹ごし豆腐は深川の庶民には受け入れられなかった。彼らの食習慣では固く歯ごたえの強い木綿豆腐こそが豆腐だったからだ。 続きを読む

吉良の言い分/岳真也

松の廊下事件や吉良邸討入りなど、憎まれっ放しの吉良上野介だが、本書の主役はその悪役とされる吉良上野介だ。タイトルから想像するほど吉良を弁護しているわけではないが、敵対関係となってしまった赤穂藩との感情のすれ違いが読者に伝わって来る。

勅使・院使を接待する「御馳走人」を任された赤穂藩領主・浅野長矩。その浅野に饗応の礼儀作法を教えるのが吉良の役目だった。吉良は浅野に恥をかかせまいと最大限の配慮を施したが、浅野に吉良の善意は伝わらず、逆に浅野は吉良に対して怨恨を募らせた。 続きを読む