講談 大久保長安/半村良

甲斐の大蔵藤十郎(のちの大久保長安)は黄金精錬に長けた技術者だった。

甲斐の金鉱の存在は、織田、上杉と対抗する上で重要な役割を果たしていた。しかし、信玄亡き甲斐に混乱が生じ、やがて長安は徳川家に仕える。その後天下の金銀鉱山を掘りまくり、「黄金の男」と称された。 続きを読む

始祖鳥記/飯嶋和一

ひたすら空を飛ぶことを夢見た男がいた。巨大な凧を作り自ら空を舞い、鳥の鳴き声を真似て幕府の悪政を批判する幸吉。人々は伝説の怪鳥が現われたと畏怖の念を抱くと同時に、日ごろの鬱憤を晴らす思いをも抱いていた。

しかし、やがて役人に検められ遠隔地へ追放される。全てを忘れ新しい生活を得た幸吉だったが、ふとしたことから凧作りを再開することになった。幸吉は一心不乱に凧作りに没頭し、やがて忘れかけていた飛ぶことへの情熱が甦る。 続きを読む

漆黒の霧の中で 彫師伊之助捕物覚え/藤沢周平

「だが伊之助は凄腕の岡っ引と呼ばれた男である。胸の中に昔の勘が動いていた。」本文より。

江戸時代を舞台に繰り広げられる捕物小説だ。川岸に上がった水死体の素性調査を始めた主人公・伊之助。しかし、調査が進むに連れ第2、第3の事件が起り伊之助の身も危険に晒されて行った。探偵物にありがちなパターンだが、そこには江戸時代に生きる町人たちの細やかな人間模様も描かれており、典型的な時代小説の良例だ。 続きを読む

高山右近/加賀乙彦

キリスト教が布教された戦国時代。当時の有名な切支丹として黒田官兵衛、細川ガラシャ夫人などが挙げられるが、高山右近もその一人。

本書では武将としての戦場での活躍はそれほど描かれておらず、むしろ天下平定後、彼の晩年に見られる信仰心に満ちた人生が中心に描かれている。 続きを読む

ながい坂/山本周五郎

身分の低い家柄に生まれた主人公・小三郎の立身出世を描いた小説だが、決して痛快なサクセスストーリーではない。目の前の困難に淡々と、そして真摯に向き合うが、身分社会で成り上がる事の難しさが痛切に伝わってくる作品でもある。

身分差により受けた幼い頃の屈辱。
以来、学問を高め、武芸を磨く事が彼の自尊心を保つ手段となった。それでも、実力以上に彼に立ちはだかる身分制。自らが伸びようとすればするほど周囲の風当たりは強くなる。 続きを読む