ポーツマスの旗/吉村昭

外相小村寿太郎は日露戦争後の条約締結を担ってポーツマスに派遣された。ロシアを含む列強との熾烈な外交を描いた小説だ。

ルーズベルト大統領の仲介でかろうじて戦勝国となった日本だったが、条約締結に際しロシアに強気な態度を取れるような底力は日本には残っていなかった。 続きを読む

羆嵐/吉村昭

一頭の巨大な羆の出現が平穏な村を戦慄させた。北海道天塩山麓の開拓村で起こった獣害史上最大の惨劇にまつわる一部始終を語った小説。

とある一家の軒下に干されたトウキビが羆に食い荒らされた。その夜は馬が異様にいななき、忍び寄る恐怖が否応にも読者に伝わってくる。羆の行動は次第に大胆になり、やがて人を襲うようになった。被害者の死因が羆によるものだと判明した後はまさに恐怖の連続。 続きを読む

明石元二郎 -日露戦争を勝利に導いた天才情報参謀- /江宮隆之

日露戦争において、ヨーロッパを舞台に諜報活動を行った情報参謀、明石元二郎の生涯を描いた小説。

幼いころの元二郎はいたずら好きなやんちゃ坊主だったようだ。身なりもだらしが無く一見ずぼらだが、頭脳が抜群に良かった。「孫子の兵法」を特に好んで読んでいたようだ。士官学校、陸軍大学を優秀な成績で卒業した元二郎は、参謀本部付を命じられた。 続きを読む

高熱隧道/吉村昭

昭和11年8月、富山県黒部峡谷で着工された発電所電源開発工事は、大自然の脅威と闘いながらの難工事となった。多くの困難に直面しながらもその工事に立ち向かった人々を描いた小説。

トンネル工事を続ける人夫たちを最も苦しめたものは、摂氏165度にもなる岩盤の温度だった。坑内温度も高いところで60度を超えていた。坑内にいるだけでも火傷を負う。熱気を逃がすために堅坑を掘り下げる、人夫たちの体温を下げるために谷川から吸い上げた冷水をかける、等さまざまな工夫を凝らし工事を続けた。しかし、安全基準とは程遠い環境での作業は様々な事故を招いた。雪崩による宿舎の崩壊や、高熱が招いたダイナマイトの自然発火など、人夫たちの犠牲者が相次いだ。 続きを読む