項羽と劉邦/司馬遼太郎

めっぽう戦に強く負け知らずの項羽と、戦えば必ず負ける劉邦。この二人が秦帝国末期に現われ、覇権を賭けた争いを繰り広げる。

負け続けてきた漢軍が最後に逆転できた理由はなんだったのか。劉邦は出身を問わず才あるものを積極的に採用した。一方項羽は武力を重視し、さらに能力を問わず地族、血族を軍で重用したがそれがいけなかった。無能の者が重役になってしまったからだ。 続きを読む

三国志/北方謙三

中国が魏、呉、蜀に三分され、それぞれが覇権を争った時代を三国時代と呼ぶようだが、黄巾の乱から三国鼎立までの群雄割拠の時期がより波乱に満ちている。それは本書でも例外ではない。

その時代の英雄の一人として呂布がいた。彼は無敵の騎馬隊を率いて各地を転戦し、天下を掻き回した。その武勇は中国全土に鳴り響いたが、一方でセンチな心をも併せ持っていたようだ。本書に描かれたそんな呂布の一面を垣間見たときには救われたが、余りに繊細過ぎて痛ましくも思えた。勇猛且つ繊細といった点では、張飛も良く似ていた。 続きを読む

小説十八史略/陳舜臣

紀元前、ほとんど資料が残っておらず、伝説として伝えられているような神話的時代から話が始まり、その後の夏、春秋、殷、周、秦、漢(前漢、後漢)魏、呉、蜀の三国時代、晋、隋、唐、モンゴルの台頭から宋の滅亡まで。小説仕立てにされた十八史略が延々と描かれている。

勝者によって若干色付けされた史実にマッタをかけ、真実を追究しようとする著者の姿勢が伺える。例えば、和睦によって一命を取りとめておきながら、その後に勢いが良くなると、後の記録に「相手が降伏した」みたいなことを書いたりする。一見どうでもいいようなことだが、そのへんに勝者の見栄が見え隠れしている。項羽と劉邦の覇権をかけた争いや、三国志、世界帝国を築いたチンギス・ハーンなどは馴染みの方も多いはず。それら英雄が駆け出しの頃の意外なエピソードが興味深い。三国時代の英雄と呼ばれた関羽も、著者にかかれば馬鹿者扱いである。以下、そのへんのくだりを本文より一部紹介。 続きを読む

孫子/海音寺潮五郎

「孫武の巻」と「孫繽の巻」の2部構成になっている。「孫武の巻」では兵法書の著者とされる孫武が登場。呉と楚が争っていた時代だ。呉に仕えた孫武だったが、物語の前半に孫武の兵法家としての見せ場はほとんど無い。それでも、地形や古代の戦争を丹念に研究する姿に来るべき孫武の、あるいは兵法書の活躍を予感させる。

物語の終盤「孫繽の巻」では孫武の子孫、孫繽が登場。「繽」の字は「糸へん」ではなく「月へん」が正しいらしいが、作品中では著者の意向により「繽」となっている。孫繽の家では家法扱いされていた孫武の兵法書だったが、遊び呆けていた孫繽には興味の無い代物だった。書物の研究に真摯に取り組む友人の熱心な勧めにも乗らなかった。それでも、その友人は孫繽が時折見せる才能の片鱗を認めていた。 続きを読む