アメリカ彦蔵/吉村昭

少年、彦太郎(のちの彦蔵)が船乗りになり海に出るが、航海中に船が遭難。漂流生活を送る中、異国船に遭遇し、米国船・オークランド号に助けられ渡米。

船内や米国で思わぬ厚待遇をうけた。やがてカトリック教徒になるが、日本はキリスト教禁制下であったため、米国に帰化してからアメリカ人として日本に帰国した。

しかし、日本の情勢は不安定だった。世論が開国か攘夷かの真っ二つに割れ、外国人は攘夷論者にとって神経を逆撫でする存在だった。通訳として帰国した彦蔵は外国人に付き添うが、危機感を覚え再び渡米した。しかし、当時のアメリカは南北戦争の真っ只中だった。彦蔵はスパイ容疑で連行され拘禁された。彦蔵がアメリカに対して抱いていたイメージが揺らぐ。

そして再び帰国を決意し、通訳官として横浜村に到着したが、領事館員たちとの折り合いが悪くなり辞表を提出。その後、彦蔵は日本の商人たちが行う貿易業をサポートした。英字新聞を情報源とし、外国商人たちと対等な取引をする傍ら、国際情勢の新聞記事を和訳することで開国論者たちから注目を浴びた。

和訳に際し、彦蔵はある事を考えるが、その考えが著者の作風を良く表しているようにも思えたので以下に紹介したい。

「美辞麗句を多用する文章は、文字そのものに自ら酔っていて、人の心の琴線にふれることはない。新聞の記事は事実を正しく伝えることを第一とし、そこに事実による感動がうまれる。」

他に幕末の漂流民を描いた小説として、津本陽著の「椿と花水木」がある。いずれの場合も、主人公がアメリカを新鮮な感覚で捉えており、彼らの言動が読者を楽しませるが、帰国後に日本の現状を見て落胆する。もちろん、彼らは「西洋通」として方々で重宝されるが、一方で攘夷派の武士たちを常に恐れざるを得ない気苦労もあったようだ。

読了: 2000年 4月