冬の鷹/吉村昭

オランダの医学書・「ターヘルアナトミア」の和訳を手がけた前野良沢を描いた小説。

医業を生業とする良沢がオランダ語に興味を持ち、47歳で長崎に遊学。しかし、初めて目にするオランダ書の横文字に圧倒され途方に暮れた。後に江戸へ戻った良沢は、杉田玄白らと共に処刑場へ足を運び、死体解剖を見学することで、ターヘルアナトミアに示された人体図の正確さに驚愕した。そして良沢らは和訳に強い使命感を抱いた。

蘭和辞書が無かった時代、僅かな手がかりから単語一語一句の解釈を巡り、その内容に一喜一憂する彼らの言動は感動を誘う。

寝食を忘れ和訳に没頭し、完訳されたその医学書は「解体新書」と名付けられた。(このへんは日本史の教科書でお馴染み)しかし、出版に際し、良沢は翻訳者に名を連ねることを拒んだ。医学よりもオランダ語の研究に興味を示す彼は、完璧な和訳にこだわった。一方、杉田玄白の興味は専ら医学であり、不完全ながらも和訳された解体新書を世に広めることで医学の発展を望んだ。

その後、二人の人生は相対的なものになった。玄白は富と名声を手に入れ医者として華やかな人生を歩んだが、良沢は世俗的なものから一切遠ざかり、かたくなにオランダ語の研究を続けた。

読了:2000年 6月