夢 命を懸けたV達成への647日/星野仙一

18年ぶりにリーグ優勝を果たした阪神タイガース。それは阪神ファンならずともその年のビッグニュースの一つに挙げられるだろう。大型選手の積極的な補強や選手の意識改革等は、我々一般人から見ても良くわかる優勝の大きな要因だ。

しかし、本書で注目すべきはその舞台裏とも思われる組織内部での著者の活躍だ。著者自身は改革と呼べるような特別なことはしておらず、「あたりまえのことをあたりまえに」やっただけだと述べているが、それが一番困難だったのではないだろうか。「「やるか、やらぬか、「やる」が改革」」とも著者は述べるが、それこそが優勝の原動力となったのであろう。

ここで、本書から読み取れる優勝のキーマンを一人挙げたい。
監督としての実務を一手に引き受けていた島野ヘッドコーチだ。彼の懐が深いのか、著者の人間的魅力が島野ヘッドをそうさせるのか。いずれにしてもそこにお互いの強い信頼関係を見ることが出来る。

「燃える男」、「闘将」などと称され、喜怒哀楽の豊かな表情はファンをもその気にさせてきた。中日や阪神ファンならず、星野ファンがいるというのは著者のそのあたりに魅力を感じるからだろう。男気を前面に押し出すイメージが先行しがちな著者であり、読中は熱いものが込み上げてきた。しかし同時に、選手に対する細やかな気配りや優しさをも感じられた。

読後、日本シリーズ開幕を心待ちにする日々が続いていたが、開幕直前の勇退報道。ゲームには興奮したが、一方で水をさされたような気持ちが抜けきれず、シリーズ観戦に一抹の寂しさを感じた。

読了: 2003年10月

そして2013年、著者は東北楽天ゴールデンイーグルスの監督として日本一となった。色々と見聞するに、血気盛んな「闘将」としてのイメージは影を潜め、選手たちへの接し方も変わってきていたようだ。現役選手との年齢差が広がった事もあるだろうが、時代と共に変わってきた選手の気質に合わせていく努力もされたのではないかと察する事が出来る。そうやって自分を変えていけるのだとすれば、そこがやっぱり素晴らしいところ。