闇に消えた怪人—グリコ・森永事件の真相—/一橋文哉

「それはまさしく、現代社会を舞台にし、全市民を観客とした、”劇場犯罪”であった。」本文より

1980年代の日本を騒がせた、グリコ・森永事件の完全時効が成立した。江崎グリコ社長誘拐から端を発した一連の事件の真相を追究する一冊。

かい人21面相の犯人像を巡り、事件当時は様々な説が浮上した。犯人が警察の動きを先読みしていることから生じた、警察の内部犯行説。合併による内紛から関係者の感情がもつれた、グリコに対する怨恨説。そして、カネ目当て説など…いずれも動機付けとしては充分のように思われる。

多くの菓子会社に送られた脅迫状、警察を揶揄した挑戦状など、本書にはそれらの資料集も収録されている。私は少年時代、菓子などそれほど食さなかったが、事件のインパクトだけは強烈に残っている。そして現在、私は本書を読みながら何度か背筋が凍りつく思いをしたこともまた事実である。そして、著者・一橋氏に送られてきた1通のある手紙。それは犯人を装った悪戯文書とは思いがたい「かい人21面相」の告白書だった。以前、私は高村薫著の企業小説、「レディ・ジョーカー」を読んだが、その内容はどこかしら似していた。

そして、本書を解説する、作家・出久根達郎は最後に以下のように語る。

「こんなにも詳しく、なまなましく、事件の内側を語れるものは、当事者以外、考えられぬではないか。一橋文哉氏こそ、「闇に消えた怪人」ではあるまいか。」本文より

出久根氏が語るように、本書の情報量は相当なものです。

2013年秋ごろ、人気漫画の「黒子のバスケ」に絡んだ一連の脅迫事件が発生した。当時のグリコ・森永事件を意識した手口がいくつか見られたが、逮捕された犯人の動機が情けないほど小粒に思えた。どちらも犯罪である事には変わりないが、グリコ・森永事件の犯人たちの犯行動機は恐らく他人が救えないほど根深いところに存在し、その執念が、簡単に尻尾をつかまれない周到さの一助となっているのであろう事は想像に難くない。