金大中 獄中書簡/和田春樹・金学鉉・高崎宗司訳

韓国前大統領・金大中。一国の指導者たればその略歴はさぞ華々しいものだろうと想像するが、大統領当選までの道のりは実に波乱万丈だ。韓国民主化運動の中心人物だった著者だが、1980年の政変により約2年間の獄中生活を余儀なくされた。本書にはそんな逆境生活の中で家族に宛てた29通の手紙が収録されている。

まず、書簡全体を通して感じられたのは著者の篤い信仰心だ。逆境の受け止め方や家族への愛情などに対して顕著に見受けられる。いかなる信仰であれ、敬虔な信者の言動には排他的な側面が見られるものだが、著者の場合は他宗教の良い点を認め、また自ら信仰する教義の弊害をも同時に認めている。そんな著者の内面から搾り出すようにして書き出された証言は、下手な教典よりもずっと読者の心に響き、しばしば畏敬の念を抱かせる。

そして次に注目したいのは話題の深さだ。宗教はもちろん、歴史、哲学、道徳、経済、近隣諸国を視野に入れた政治論など、事の正否の判断は私には出来ないが一読の価値はあるだろう。また、本書の後半に見られる各書簡には、「思想の断片」と称した著者の思いが綴られており、その内容には深い箴言性を感じる。

読了: 2003年12月