ユーゴスラヴィア現代史/柴 宜弘

「「第二次大戦後のユーゴは、「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」という表現に端的に示される、複合的な国家であった。」」(本文より)

タイトルに「現代史」とあるが、実際には数世紀前からの近隣諸国を含むバルカン半島の歴史が述べられている。ユーゴ建国までの流れや建国後の問題、そして内戦勃発への複雑ないきさつから連邦解体まで。前述した端的な表現からある程度想像できるように、紛争の種があちこちに存在していた。

紛争の最も大きな要因は激しい民族対立にあった。人工的に作り上げた国家の弊害であろう。クロアチアを始め、マケドニアやスロヴェニアなどが独立したのはむしろ自然の事のように思えた。しかしながら、独立までの道のりは実に凄惨だった。本書を読んでいると、ユーゴが位置するバルカン半島が「ヨーロッパの弾薬庫」と形容されてきたのがうなずける。

余談ながら、NATOによるユーゴ空爆はいまだ記憶に新しい。内戦絡みの虐殺行為をセルビア人による「非人道的行為」と欧米のメディアが駆りたて、セルビア人勢力への空爆を正当化したわけだが、かえってその空爆により民間人の犠牲者が増えるという皮肉な結果を招いた。どちらも「非人道的」であることには変わりはないが、ただ、メディアの在り方について疑問が残った出来事だった。

読了: 2002年8月