ベルリンの秋/春江一也

前作 、「プラハの春」の続編。史実に基づいたフィクションです。

プラハの春に遭遇した主人公、堀江亮介が事件以後東京に戻ってきた。チェコでの実績を買われ今度は東ドイツへ赴任した。普段は乗用車を使う堀江だが、たまたま電車を使い、そして気まぐれで途中下車した。そこで亮介が見たものは、カテリーナの忘れ形見シルビアだった。このあたりは完全な恋愛小説。

”ミスターX”の偽名を使い、ソ連の体制批判を繰り返すセルゲイ。当時、体制批判は国家反逆罪であった。しかし、彼の論文が新聞上に掲載され、いつしか「X」論文と呼ばれるようになった。セルゲイによる知的テロ活動がソ連体制を根底から揺るがせた。「X」論文を通じ、セルゲイと交流を深める亮介。セルゲイがロシア語の歌を唄うシーンが印象に残った。しかし、いつしかKGBやシタージによるマークが厳しくなり、国際スパイ戦争に巻き込まれていった。

この小説では、共産党独裁国家が持つ異常な閉鎖性が事細かに描かれていた。著者の言葉を借りて言えば、「マルクス・レーニン主義の欺瞞」なのであろう。小説で味わうカルチャーショックがここにある。

そして、ベルリンでは「壁」崩壊へのカウントダウンが始まった。壁が崩壊し、大勢の人々が東から西へ移動するが、とくに国境(壁)付近での激変は感動を覚えた。この時期の東欧は実に興味深い。

読了:1999年 12月