吉宗と宗春/海音寺潮五郎

疲弊した幕府の財政を立て直すべく吉宗が施行した倹約令。この政策で幕府は生き返ったが、人民の生活は潤いを失った。府庫に貯め込むばかりで、通貨が流通しなかったからだ。その吉宗の政策に真っ向から対立したのが、御三家尾張の宗春だ。

宗春は幕府の財政を立て直した吉宗の手腕を評価はしたが、その後も同じ政策をとり続け、民を窮乏させた事を強く批判した。政道は生き物であり、臨機応変に最上の策を施すべきだと宗春は言う。

そんな宗春がとった経済政策は倹約令の内容とは相反するものだった。名古屋の町に遊女町や芝居小屋を設け、踊りや鳴り物をも奨励した。そして宗春自らも派手に遊び散財した。幕府からの咎めの使者が来ようとも、持論を巧みに展開し自らの政策を貫いた。果たして、宗春の政策は功を奏し、町は華やぎ、また経済効果も上がった。そうかと思えば、状況が変われば一転して倹約を奨励し、物価の急変から尾張を守った。

つい宗春を応援したくなるような小説だが、作品中ことあるごとに対比される吉宗はどうか。宗春が痛快な人物に描かれているためか、吉宗の印象は対極的だ。政道批判は当時の犯罪行為だが、それを御三家の男に堂々とやられては吉宗も扱いに苦しんだことだろう。宗春を周到に追い詰めて行く吉宗の心境を思わずにはいられない。

読了:2005年 1月