講談 大久保長安/半村良

甲斐の大蔵藤十郎(のちの大久保長安)は黄金精錬に長けた技術者だった。

甲斐の金鉱の存在は、織田、上杉と対抗する上で重要な役割を果たしていた。しかし、信玄亡き甲斐に混乱が生じ、やがて長安は徳川家に仕える。その後天下の金銀鉱山を掘りまくり、「黄金の男」と称された。

水銀アマルガム法(どんな方法なのかは知らないが)と呼ばれる高度な精錬法に熟練し家康に重宝されるが、長安は如何せん謎が多く、「黒幕」の印象が終始拭えない。西洋から伝わった「水銀アマルガム法」を「南蛮しぼり」と呼んでいるところが、横文字に慣れない当時の社会を反映しているようで興味深い。

タイトルに「講談」というだけあって、その文体は小説というよりもむしろ読者に語り掛けてくるようで、否応無しに物語世界に引きこむ。寄席とはきっとこういう感じなのだろう。話の脱線が多いが、話自体が面白いので笑って読み過ごせてしまう。

ちなみに、隆慶一郎著の「捨て童子・松平忠輝」にも大久保長安が登場し、物語上重要な役割を果たす。

読了: 2000年 4月