あかね空/山本一力

江戸の深川を舞台に生きる豆腐職人一家を描いた人情味溢れる小説。

主人公・永吉は京都の老舗豆腐屋で修業を積んだ後に、江戸は深川の長屋に移り住む。その後近所の人々からの手助けを受け、豆腐屋を開業。しかし、京風の柔らかい絹ごし豆腐は深川の庶民には受け入れられなかった。彼らの食習慣では固く歯ごたえの強い木綿豆腐こそが豆腐だったからだ。

開店当初こそ客が集まったが、実際に食べた客の反応は皆同じで、客足は遠のく一方だった。閉店後、売れ残った大量の豆腐を潰す日々が続いた。おそらく、永吉にとって豆腐を固く仕上げることなど簡単なことだったに違いないが、自分の味をわかってもらうまで頑張ろうとするところがいかにも職人っぽくて、読んでいて気分が良かった。自分の腕に誇りと自信があったのだろう。

そんな折、永吉に転機が訪れた。お寺から大量の注文が入ったのだ。(※本書を未読の方はそのいきさつに注目して読んでみてください。人情ってやつを感じると思います。さらに、物語の要所要所で永吉の豆腐の味が認められたことも大きかった。)その後、次第に取引先が増え永吉の豆腐が一目置かれるようになった。さらに、店が繁盛し始めた頃には自分の家庭に二人の子供をもうけるまでに。

しかし、忙しくなるにつれ家庭のまとまりが徐々に失われていった。様々な状況が重なり、家族のそれぞれが勝手な思い込みで相手を誤解したまま年月を費やしていく。相手を思うが故の誤解であることにさえも気付かずに、である。物語の後半では、誤解による感情のすれ違いが様々な角度から解消されて行った。その様子が何とも心に沁みた。

義理、人情ものの小説はあまり好きではなかったが、本書読了後には人情ものも悪くないな、と思うようになった。物語の内容だけを考えると時代背景の設定は何時代でも良さそうな気がするのだが、それでもやはり江戸時代を舞台に描いた人情小説はしっくりといくものだ。

余談ながら、私は読了後にスーパーへ行き、そこで絹ごし豆腐を買った。なんでもない湯豆腐をつくって食べたが、それが実にうまかった。

読了: 2002年03月