天翔ける倭寇/津本陽

戦国時代、富を求めて海へ出た海賊・倭寇を描いた作品。

海上でのみならず大明へ渡ってからも連戦連勝の彼らだが、次第に郷愁の念が漂いはじめた。しかし、誰もそれを口に出せなかった。それがかえって郷愁の念を増すことになるのだ。そう思いながら私はこの作品を読んでいた。

「誰かが日本の小唄を唄いはじめた。(中略)低いが若々しい力のこもった音声で、聞く者に望郷の思いをかきたてさせた。(中略)

「いようよう、紀伊の田植えをば思い出すれえ」

長蔵がほめそやす声にも、望郷の思いがあふれていた。」本文より。

読了:1999年 10月

また、感じの似た小説として同著者の「鉄砲無頼伝」(角川文庫)がある。鉄砲を大量生産し、組織立った戦闘集団を作り上げた根来衆が、プロの傭兵として活躍する物語だ。戦闘能力を糧とし、自由に生きる主人公を描いた手法は、いずれの作品にも共通している。