そこにシワがあるから -エクストリーム・アイロニング奮闘記/松澤 等

いかに過酷、あり得ない状況の中で上質なアイロンがけを行うかを競うスポーツがある事を知ったのは数年前の某テレビ番組だった。山頂、水上や街中などどれ程非日常の条件下で競技をするかで選手(エクストリーム・アイロニスト)のユーモアが問われるのはもちろん、アスリートとして鍛え上げられた肉体も要求される。著者は日本におけるそれの第一人者だ。

これはユーモアであって決しておふざけではない。著者は主張する。
たしかに、中途半端な覚悟では重大な事故になりかねない状況でのアイロニングもこなすようだし、また本人がふざけていてはユーモア足りえず却ってしらけてしまうだろう。真摯に向き合うからこそ笑いと、時には感動を呼ぶのだ。

本書には競技風景の写真が多数掲載されているが、そのほとんどが見た瞬間に無条件で笑えるものだ。

ここまで徹底すると、著者は何故そこまでしてアイロンがけにこだわるのかが気になってくるのだが、著者のアイロン掛けとの出会いやエクストリーム・アイロニストとしての覚醒にいたるまでの経緯も記されており興味深い。通常のアイロンがけに関してもしっかりとした基礎技術を有し、さらにこの競技に関する海外の文献にも目を通している。決して俄作りの先駆者ではないのだ。

この競技の発祥はもちろん海外。日本ではこの手のユーモアが育ち難い土壌があるようだが、恐らく海外においてもメジャースポーツとなることはないだろう。しかしながら、周囲からの珍奇な目線に屈せずにアイロニストであり続ける著者の精神力には感服せざるを得ない。その強い信念に、読者は引っ張られてしまうのだ。

読後にはエクストリーム・アイロニングに挑戦してみたくなるのだが、自分にはそれだけのユーモアも、体力も、周囲の視線に耐えられるだけの信念も無い事に気付く。せめて、普通のアイロンを覚えて家で静かにアイロンがけをしても良いのかも知れない。それこそが、原点なのかもしれないから。

読了: 2009年07月