ビゴーが見た日本人/清水勲

フランス人画家ジョルジュ・ビゴーが当時滞在していた明治日本をユーモラスに、時には皮肉を込めて描いた風刺画集だ。

当事者である日本人にとっては当たり前すぎて気にも留めないような日常がみずみずしい感覚で取り上げられている。例えば、職業によって異なる身なりの変化、ふんどし、女性が働く姿や裸体、男女の風俗など、異国文化に溶け込まずしては決して触れる事が出来なかったであろう日常の細事が描かれている。ビゴーの旺盛な好奇心 に驚嘆だ。

ビゴーの作品からはまた、洋装することで西洋化を気取る日本人を嘲笑する趣も感じられる。風刺画での特徴の出し方が時折癪に障るのだ。しかしこのあたりは、今の日本人も外国からそう見られている節がありそうで何とも面映い。当時の日本人が抱えていた西洋文明への憧れ、また劣等感などが描かれた作品を見た時、ビゴーが抱いた優越感を想像せずには居られない。彼の画才はさることながら、優れた観察力がなせる業だろう。

江戸時代の浮世絵に感銘を受けたビゴーだったが、それを目指して来日した頃には既に浮世絵を描く文化は過去のものだったようだ。しかし、庶民の生活習慣には未だ浮世絵に描かれた世界が現実として残っていた。それが彼にとっての救いだったのではないだろうか。逆に浮世絵文化が残っていた場合、ビゴーはこれほど生活に根差した風刺画を描く事なく、単に絵を学んだだけで終わってしまっていたかも知れない。

本書とは対照的に、スイスからの使節団長エメェ・アンベールが描いた「絵で見る幕末日本(茂森唯士 訳)」では繊細なスケッチで写実的に当時の日本が描かれている。ビゴーの作品に見られる、風刺に込められた作者の意図らしいものはそれほど強烈には感じないが、描かれた風景を見ることでアンベールの興味の対象が伺える。

いずれも、当時の日本を客観視することが出来る非常に興味深い作品集だ。

読了: 2007年2月