官僚たちの夏/城山三郎

終戦から復興の兆しが見え始めた昭和が舞台。主人公は通産省で人事に心血を注ぐ風越信吾だ。

まるでトランプ占いをするかのように人事カードを使って理想の配置を考える風越だが、対象となる人物たちの表情を思い浮かべながら脳内で対話している様子に血の通った仕事ぶりを感じる。今後の日本の発展を担うであろうエリート達。扱う人間が優秀ならば力も入るだろう。

ただ、この風越は少々アクが強い。タイトルに「夏」とあるように、冷房設備が現在ほど整っていなかった頃の話であり、若干身だしなみが崩れるのは仕方がないのかもしれない。しかし、その身なりに相まって言動も無骨だ。それも、ただ口が悪いというわけではなく、独自の理念に基づいてるものだから力も感じる。

時に、思わず付いていきたくなるような強烈なリーダーシップを感じることもあったが、一方ではその個性に煙たさも感じた。今、こういう人は巨大組織で生きていけるだろうか。こういう人間が許されるような社会的な活気は今の日本には感じない。

主人公の職業柄(?)、物語の背景には常に経済問題があり、そのあたりの様子がおぼろげながらも当時の高度経済成長の空気を感じさせてくれる。

読了: 2009年12月

数年前、佐藤浩市氏が主人公でテレビドラマ化されていたが、カッコよかったな。 私は原作よりもテレビが先だったので、読中の登場人物たちのイメージはそのドラマのキャスティングに沿ったものとなった。

主人公のバイタリティが、ちょっと羨ましく感じた作品だった。