小林秀雄対話集

坂口安吾、三島由紀夫、江藤淳など、当代きっての文学者たちを相手に小林秀雄が忌憚の無い対話を繰り広げる。

冒頭は坂口安吾。骨董、安吾の作品「白痴」、恋愛、画家などについて話題が及ぶが、社交辞令を欠いた二人の口調はどこまでもストレートだ。しばしば意見がぶつかり合うが、それでもお互いが歩み寄らないところが読んでいて気持ちがいい。これは相手に話を合わせる商談ではなく、またその必要も無い損得抜きの本音トークなのだと改めて読者は認識する。 続きを読む

人間 坂口安吾/野原一夫

戦前、戦中、終戦と混乱の時代に出版社に勤めていた著者から見た坂口安吾。無名時代や売れっ子作家時代、さらにはプライベートな部分までが「恋愛」、「青春」、「狂気」、「闘争」、「家庭」の章に分かれて述べられている。

著者の仕事柄、多くの作家と会う機会がありそうなのだが、大衆に知られにくい同人誌に作品を発表していた安吾はまだ無名だった。著者も同僚から聞いて初めて知ったぐらいだ。その後、「堕落論」、「白痴」などを読んで衝撃を受けたが、連載作品の「花妖」は、読者に受け入れられずに未完となってしまった。編集を携わっていた著者は粘り強く再開を促したが、安吾が首を縦に振らなかったようだ。著者も安吾も残念だっただろうが、今となっては私も読んでみたかった。 続きを読む

信長/坂口安吾

青少年時代から桶狭間での勝利まで。「堕落論」で知られる著者の文体によって描かれた信長像が真新しい快作だ。

十代の信長は悪評高い大うつけ。多くの作品で見られる傾向だが、本書の信長も例外ではない。しかし一方で、父・信秀と敵国・美濃の斉藤道三が争う様子を冷静に分析もしている。その分析を表現する著者の文体、またそれを体現する信長の言動などが読んでいて心地良い。敵将・道三についてもまた然り。あるいは信長とは、また道三とは実際はそういう男だったのかも知れないと思えてしまうからだ。 続きを読む