樅ノ木は残った/山本周五郎

舞台は江戸時代前期の仙台藩。伊達騒動という、一連のお家騒動に関わった宿老の原田甲斐が主人公だ。この騒動の背景には幕府の老中・酒井雅楽頭と仙台藩主一族の伊達兵部との間に交わされた仙台藩六十二万石分与の密約があった、というのが本書の設定。

伊達家に混乱をもたらすための陰謀の手始めとして、藩主・伊達綱宗の強制隠居があった。淫蕩が理由とのことだったが、その廉で綱宗の側近四名が「上意討ち」にあう。この事件で惨殺された彼ら四名の家族のうち、新八や宇乃といった人物が後にこの物語を彩っていく事になる。(決して復讐劇になるわけではないが。) 続きを読む

ながい坂/山本周五郎

身分の低い家柄に生まれた主人公・小三郎の立身出世を描いた小説だが、決して痛快なサクセスストーリーではない。目の前の困難に淡々と、そして真摯に向き合うが、身分社会で成り上がる事の難しさが痛切に伝わってくる作品でもある。

身分差により受けた幼い頃の屈辱。
以来、学問を高め、武芸を磨く事が彼の自尊心を保つ手段となった。それでも、実力以上に彼に立ちはだかる身分制。自らが伸びようとすればするほど周囲の風当たりは強くなる。 続きを読む