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三国志(一の巻〜十三の巻) 角川春樹事務所


中国が魏、呉、蜀に三分され、それぞれが覇権を争った時代を三国時代と呼ぶようだが、黄巾の乱から三国鼎立までの群雄割拠の時期がより波乱に満ちている。それは本書でも例外ではない。

その時代の英雄の一人として呂布がいた。彼は無敵の騎馬隊を率いて各地を転戦し、天下を掻き回した。その武勇は中国全土に鳴り響いたが、一方でセンチな心をも併せ持っていたようだ。本書に描かれたそんな呂布の一面を垣間見たときには救われたが、余りに繊細過ぎて痛ましくも思えた。勇猛且つ繊細といった点では、張飛も良く似ていた。

長い戦乱の中から勢力を拡大していったのが曹軍、孫軍、そして劉軍だ。天才的に戦が上手く、参謀にも恵まれた曹操は後に魏を建国。一方、父・孫堅の死後、袁術を頼らざるを得なくなった息子の孫策は、屈辱的な日々を送っていた。その時期の孫策の、袁術に平伏するくだりが忘れられない。後に孫策は袁術から独立を勝ち取り、周瑜と共に呉を再建。他勢力を畏怖せしめた。この二人の活躍が実に清々しい。

そして諸葛亮孔明。劉備を支えた天才軍師だ。彼は流浪の軍だった劉備軍に戦略を与え、後に蜀を建国させた。神格化されてしまった印象のある孔明だが、本書における孔明は一人の漢。闊達ではあるが、一方では敗戦の責任を一人で背負い込み、苦悩する姿をも見せる。劉備軍に加わるまでの孔明は鬱屈した晴耕雨読の生活を送っていたが、劉備に口説かれ心を動かされるくだりには、心が震えた。

登場人物たちには著者流の男気が溢れているが、戦の描写も上手い。特に、長坂橋での戦闘を描いた「橋上」の章が印象深かった。その章では呼吸が止まりそうな程の迫力と緊張感を覚えた。吉川英治、陳舜臣と続き、著者の作品が私にとって三作目の三国志となったが、前述したいずれの作品よりも、本書には躍動感が溢れていた。

読了:2004年 5月

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