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名もなき勇者たちへ 落合信彦 集英社


主人公はイスラエルの情報機関(モサド)で活躍する女性エージェントだ。刺客として訓練を受けた彼女は世界中の大物をターゲットに駆け回る。本書で見られるモサドの訓練は、先頃読んだ「シルミド」を思い起こさせる。しかし、小説「シルミド」との違いは、訓練兵と教官との間に人としての情が見られたことだろう。

任務を重ねていく過程ではCIAやFBI、さらにはニューヨーク・タイムズの記者などが登場し、白熱の諜報活動が見られる。このあたりの緊張感は、著者のファンならばお馴染みだろう。さらに、聞き覚えのある中東の過激派グループやその指導者たちが登場することで、物語に現実感が沸き起こり、事の成り行きから目が離せなくなる。

様々な状況の中で確実に任務を成功させ続けた主人公だったが、そんな彼女を見ているとある種の疑問が浮かんでくる。エージェントとしてはパーフェクトだが、果たして人間としては幸福なのだろうかということだ。それは作品中のモサドの上官の言葉にも表われている。刺客を育てるということは、ある意味人が人で無くなるということでもあるようで、彼女が訓練やミッションを完璧に達成させていく度毎に私は主人公の心を懸念した。

彼女がどんな状態で物語が終わるのか。読中気になった所の一つだったが、エピローグには著者一流の幕切れが待っていた。世界を舞台に繰り広げられる命がけの情報戦が、著者の作品の代名詞のようにも思える。しかし、私がそれと同様に著者の作品に求めていたものが、本書のエンディングにも見られた。

読了:2004年 10月

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