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ケータイ版

 

天と地と(上・中・下) 海音寺潮五郎 文春文庫


積極的に版図を広げたわけでもなく、痛快な成りあがりを見せたわけでもない。それでありながらも周囲にその存在を恐れられた上杉謙信。彼の生い立ちからライバル武田信玄との決戦までが描かれた戦国小説だ。

越後の守護代・長尾家に生まれた虎千代(後の謙信)。父・為景には疎んじられ続け、また幼くして母を亡くした。不遇だが、虎千代には後に天才的な戦振りを見せるその片鱗があり、またそれを知った取巻きが彼を盛り立てた。さらに、長尾家女中の松江や、戦の指南役とも言える宇佐美定家などの存在も印象的だ。

武将として成長し、小規模ながらも数々の戦果を挙げ続けて行く景虎(後の謙信)。そんなところに、戦場で活躍する典型的な戦国武将を描いた小説の面白さがある。そしてもう一つ。隣国の武田信玄の存在だ。著者はしばしば、作品に対照的な二人を登場させる。「吉宗の宗春」ではその二人、「孫子」では孫繽とその友人、「西郷と大久保」などもそうだ。本書でも、景虎と晴信(後の信玄)が対照的に描かれている。晴信を戦場外での戦巧者として描く一方、戦場で雌雄を決することを望む景虎は男性的気概に満ちた武将として描かれている。

そんな景虎の見せ場はやはり戦場だ。上杉軍と直接矛を交えることを避ける晴信を決戦場に誘い出し、晴信めがけて敵の本陣に一直線に突入するくだりを読んだ時の鮮やかな興奮。それが大将のすることか、と冷ややかな疑問を抱いたりもしたが、そんな読者にこそ景虎の武勇はより一層鮮烈に心に残るのだ。参謀筋の主人公を描いた小説を好んで読んでいた私にとって、この感動は新鮮だった。

読了: 2005年6月

写真は米沢市上杉神社の上杉謙信像

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