破獄 新潮文庫
昭和11年から22年の間に4度の脱獄を実行した主人公。緻密な頭脳と超人的な体力を併せ持ち、その脱獄の手口は大胆且つ繊細。クライマックスは3度めに収容された網走刑務所での脱獄劇か。網走刑務所は過去に一度も脱獄の例がなく、また建物の造りも堅牢だった。そこに収容された主人公がいかなる手段で脱獄を試みるのか。看守たちを手玉に取る主人公の言動から目が離せなかった。
主人公を脱獄に駆り立てた要因をいくつか挙げたい。1つは囚人生活の厳しさ。主人公は時として非人道的な扱いを受けていたのだ。彼の脱獄歴が考慮された結果であろう。そしてもう1つは冬期の厳しい寒さ。凍傷によって体調を崩した囚人が大勢いたようだった。いずれも脱獄の動機としては十分に考えられる。主人公は4度の脱獄を実行した後、東京府中刑務所に収容され、やがて仮出所した。
また、主人公が脱獄を繰り返していた当時、世の中は戦中・戦後にあたる時期だった。食糧事情の悪化は刑務所にも影響し、人不足は看守の質の低下を招いた。本書には当時の世情が色濃く読み取れる。
主人公は脱獄した後の社会に何を見たのだろうか。生活環境は豊かになったかもしれないが、社会生活にも当然ながら規則は存在する。それは囚人規則に比べれば緩やかなのだとは思うが、その反面で不明瞭な規則が多いのも世の中だ。自由も、囚人生活中に思い描いていたほど快適なものでは無かっただろう。それどころか、社会生活を送るからこそ感じる不自由さもあったはずだ。手に汗握る主人公の脱獄を追いながら、一方では脱獄後、あるいは仮出所後の主人公が抱いたであろう心境にも思いを寄せてみた。
読了:2003年 6月
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