室町幕府の一官僚から後に関東の支配者となった北条早雲の生涯を描いた小説。
伊勢新九郎(後の早雲)が身を置く伊勢家は名門だった。が、新九郎は鞍作りに日々を費やし、無難に人生を送ることだけを望んでいた。そのせいか、伊勢家での役職も無かった。しかし、諸国を旅し世の中の動きに敏感になった新九郎は、時代が大きく変わることを確信した。
では、新九郎がみた時代の流れとは一体どんなものだったのだろうか。家柄だけで領土を支配してきた時代は終わり、今後は生産性が向上したことで力をつけた農民、地侍、国人たちが主役になるだろう、ということだった。やがて新九郎は小規模ながらも土地の支配者となり、税率を下げ農民をいたわることで土地の人々からの信頼を得た。新九郎の読みは当たった。彼の政策は領土が広がれば広がるほど力を発揮した。そしてその政策や礎となった思想は代々受け継がれ、北条の治世が続いた。
本書を読んでいると、早雲が庶民に愛されている様子がこよなく伝わってきた。知略でもって関東を制したイメージが先行しがちだが、戦をやってもほとんど負け知らずだったようだ。時代背景としては戦国の夜明け前、といったところだろうか。戦国小説に比べると物語の進展が比較的緩やかで、また血生臭さも余り感じられなかった。著者が描いた早雲像に優しさが溢れていたせいかもしれない。
読了: 2002年5月