小説 直江兼続 —北の王国—/童門冬二

上杉謙信、景勝に仕えた参謀、直江兼続を描いた小説。

兼続のもともとの出身は樋口家で、幼名を与六といった。直江家の後継ぎが早世したため、養子となったのだ。実力が買われ家臣の中でも高いポジションを得たが、彼の出身を知る他の家臣団からの視線は冷たかった。成人した後も「与六」と陰口をたたかれることもしばしばあった。決して居心地の良いものではなかっただろう。しかし、謙信の死後も上杉家の主人、景勝を支え名参謀としてその名を世間に知らしめ、秀吉、家康をも唸らせた。

信長が倒れ、秀吉の時代となった天下は戦国の気配が薄れ、上方では皆が保身の駆け引きに奔走していた。兼続はそんな上方の大名たちに違和感を覚えた。相手の心の裏の裏を読み、足を引っ張り合うのは性に合わない、と。彼の身体に染み付いた上杉家の家風がそう感じさせたのかもしれない。やがて兼続は、上方と一線を引き、東北地方に一大農業国を築くことを夢見た。

派手さは無いが頭が切れる。本書を読んでそんな印象を受けた。それでいて読者の心をどこか爽快にさせる微笑ましく涼やかな男振り。主人の景勝をはじめ石田三成、強烈な個性で兼続を支える女性たちなど、深い信頼関係で結ばれた彼ら登場人物たちとの交流が、兼続の魅力を引き立たせていた。ちなみに、隆慶一郎著「一夢庵風流記」の主人公、前田慶次も本書に登場し、上杉家に身を寄せた。

著者の作品の中からひとつ勧めるならば、私は迷わず本書を挙げたい。

読了:2003年 3月

直江堤公園

写真 写真は山形県米沢市の直江堤公園。

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