山椒魚戦争/カレル・チャペック

人間との出会いによって高度な文明を手に入れた山椒魚。その山椒魚がやがては人間の存在を脅かすというSF小説だ。

デヴィル・ベイ(魔の入江)に生息する黒い生物。上体を左右にくねらせながら不思議な歩き方をするその生物にJ・ヴァン・トフ船長が次第に距離を縮めていく。タパ・ボーイズと呼ばれた彼らにナイフを授けると、やがて貝をこじ開け真珠を採ってきたり、天敵のサメを退治したりと、学習能力が高い事を伺わせる。 続きを読む

樅ノ木は残った/山本周五郎

舞台は江戸時代前期の仙台藩。伊達騒動という、一連のお家騒動に関わった宿老の原田甲斐が主人公だ。この騒動の背景には幕府の老中・酒井雅楽頭と仙台藩主一族の伊達兵部との間に交わされた仙台藩六十二万石分与の密約があった、というのが本書の設定。

伊達家に混乱をもたらすための陰謀の手始めとして、藩主・伊達綱宗の強制隠居があった。淫蕩が理由とのことだったが、その廉で綱宗の側近四名が「上意討ち」にあう。この事件で惨殺された彼ら四名の家族のうち、新八や宇乃といった人物が後にこの物語を彩っていく事になる。(決して復讐劇になるわけではないが。) 続きを読む

大本営が震えた日/吉村昭

太平洋戦争前夜、ハワイとマレーを同時に奇襲する準備を極秘裏に進める日本軍。偽装・情報操作を行いながらの作戦だが、日本軍の最高機密書類を積んだ「上海号」が敵地に不時着することで大本営に緊張が走る。

不時着を知った軍営の焦燥ぶりや、墜落した機体から抜け出し敵地を彷徨う日本兵たちの行動など、その書類の重要度が嫌でも伝わる作品だ。 続きを読む

小林秀雄対話集

坂口安吾、三島由紀夫、江藤淳など、当代きっての文学者たちを相手に小林秀雄が忌憚の無い対話を繰り広げる。

冒頭は坂口安吾。骨董、安吾の作品「白痴」、恋愛、画家などについて話題が及ぶが、社交辞令を欠いた二人の口調はどこまでもストレートだ。しばしば意見がぶつかり合うが、それでもお互いが歩み寄らないところが読んでいて気持ちがいい。これは相手に話を合わせる商談ではなく、またその必要も無い損得抜きの本音トークなのだと改めて読者は認識する。 続きを読む

見知らぬ海へ/隆慶一郎

徳川軍との戦に備え、籠城の構えを見せる持舟城の向井水軍。主人公・正綱はしかし、その最中に城を抜け出し釣りに耽る有様だ。

何となく周囲の異変に気付きながらも、一度針にかかった大物を釣り上げる事に夢中の正綱。大物を仕留めはしたが、気が付けば城は炎上。留守の間に徳川軍に攻め入られ、父も、慕う義兄も、戻るべき城も失った正綱。泣きじゃくり自らも死を望んだが、城を抜け出した父の側近に厳しくたしなめられ、向井水軍の再生を誓う。 続きを読む