火天の城/山本兼一

熱田の宮大工だった主人公の岡部又右衛門。その仕事ぶりが長年にわたって信長に評価され、後に安土築城を命じられる。言葉数の少ない信長の意向を漏らさず汲み取り、イメージ通りに仕上げていく又右衛門の職人振りはお見事だ。

しかし信長の又右衛門に対する要求は常に斬新で、且つ厳しい。生唾を飲み込むような緊張感の中で、あらゆる可能性を見出そうとしていく又右衛門の様子からは番匠としての誇りや好奇心が感じられ、今後織田家と共に気運を高めていくであろう将来が想像できる。 続きを読む

利休にたずねよ/山本兼一

茶道とはかくも奥深いものか。利休の執拗なまでの美への追求は単にお茶の味のみにあらず、茶室内の空間、茶碗の趣、さらには料理にいたる。これらは、わざとらしく工夫を凝らして相手に気付かれるようではあざとくて駄目なのだ。嫌味が無く、あくまで自然に茶を楽しむ空間作りをしなければならない。利休の繊細な審美眼のみが、その空間作りを可能にする。

例えば柄杓ひとつをとっても、茶室に飾る花一輪をとっても、利休はその道具の形状をミリ単で観察し、その選定に命を削っているかのようだ。その情熱の根源は作品を読み進めていく過程で徐々に明らかにされるのでここで詳細には触れないが、一言で言えば若い頃の衝撃的な恋に起因している。 続きを読む