始祖鳥記/飯嶋和一

ひたすら空を飛ぶことを夢見た男がいた。巨大な凧を作り自ら空を舞い、鳥の鳴き声を真似て幕府の悪政を批判する幸吉。人々は伝説の怪鳥が現われたと畏怖の念を抱くと同時に、日ごろの鬱憤を晴らす思いをも抱いていた。

しかし、やがて役人に検められ遠隔地へ追放される。全てを忘れ新しい生活を得た幸吉だったが、ふとしたことから凧作りを再開することになった。幸吉は一心不乱に凧作りに没頭し、やがて忘れかけていた飛ぶことへの情熱が甦る。 続きを読む

汝ふたたび故郷へ帰れず/飯嶋和一

「「「赤コーナー、シモムラ所属、日本ミドル級二位新田駿一。…戦績、十八戦十六勝二敗。十六勝のうち六つのノックアウト勝ちが含まれています」」

お義理の拍手がパラパラと沸いた。十八戦十六勝二敗……これが足掛け五年、毎日毎日神経を擦り減らし、走り続けたすべての結果らしかった。思わず笑った。」本文より。 続きを読む