吉宗と宗春/海音寺潮五郎

疲弊した幕府の財政を立て直すべく吉宗が施行した倹約令。この政策で幕府は生き返ったが、人民の生活は潤いを失った。府庫に貯め込むばかりで、通貨が流通しなかったからだ。その吉宗の政策に真っ向から対立したのが、御三家尾張の宗春だ。

宗春は幕府の財政を立て直した吉宗の手腕を評価はしたが、その後も同じ政策をとり続け、民を窮乏させた事を強く批判した。政道は生き物であり、臨機応変に最上の策を施すべきだと宗春は言う。 続きを読む

孫子/海音寺潮五郎

「孫武の巻」と「孫繽の巻」の2部構成になっている。「孫武の巻」では兵法書の著者とされる孫武が登場。呉と楚が争っていた時代だ。呉に仕えた孫武だったが、物語の前半に孫武の兵法家としての見せ場はほとんど無い。それでも、地形や古代の戦争を丹念に研究する姿に来るべき孫武の、あるいは兵法書の活躍を予感させる。

物語の終盤「孫繽の巻」では孫武の子孫、孫繽が登場。「繽」の字は「糸へん」ではなく「月へん」が正しいらしいが、作品中では著者の意向により「繽」となっている。孫繽の家では家法扱いされていた孫武の兵法書だったが、遊び呆けていた孫繽には興味の無い代物だった。書物の研究に真摯に取り組む友人の熱心な勧めにも乗らなかった。それでも、その友人は孫繽が時折見せる才能の片鱗を認めていた。 続きを読む