疾走の夏/北方謙三

作家、北方謙三が一人のカメラマンを伴い、シカゴ~ニューオリンズ間ロングドライビングの旅に出た。本書はその時のことを綴ったエッセイ集だ。

当時、著者は免許を取りたてだったらしく、運転の動作一つ一つに対する彼の新鮮な喜びや苦悩(?)などについてを語ったくだりを読むと、私自身の初心者ドライバー時代が思い起こされ思わず笑みがこぼれた。著者の不慣れな運転に半ば脅える同乗カメラマンとの掛け合いトークもまた然り。また、著者はただ走ることを己自身の人生に例えている節が見受けられたが、それには私の心のどこか奥深くに訴えるものを感じた。 続きを読む

悪党の裔/北方謙三

治安の悪化に伴い悪党が現れ始めた鎌倉末期。本書の主人公・赤松円心もその一人だ。物語は播磨を中心に畿内全体へと展開していく。

六波羅探題の荷駄を奪うシーンから物語が始まるあたりがいかにも悪党らしい。しかし、ただの野伏りや溢者とはどこか違っていた。円心の行動には代官への抵抗の意味もあったが、心の中では何か別のものも求めていたようだ。悪党として名を挙げたいという野望や功名心と言うよりも、自分が生きた証のようなものだ。 続きを読む

陽炎の旗/北方謙三

前作、「武王の門」の続編。牧宮の子・月王丸と孫の竜王丸が登場する。彼らは南北に分かれた朝廷を一つにするべく奮闘するが、対するは三代将軍・足利義満。朝廷の権威を超え自ら帝となるのが彼の野望だった。

そして主人公は剣客として生きる来海頼冬。彼の祖父は足利尊氏というのが本書の設定だ。義満は血筋を巡った後難を考慮し、頼冬に刺客を送る。そのためか、本書には斬合いの描写が多い。 続きを読む

楠木正成/北方謙三

北条氏の権力が衰え始めた鎌倉時代の後半、反幕分子の一つに悪党の存在があった。その悪党たちの間で最も良く知られているのが河内の悪党、楠木正成であろう。

武装はするが武士とは戦わない。むしろ荘園内での小規模な戦闘が多かった。正成は自らの軍を調練し、商いで財を成すことで楠木一党を成長させ、次第に勢力を拡大していった。 続きを読む