武王の門/北方謙三

足利幕府の勢力が全国を席巻しつつあり、その力は九州にまで及ぼうとしていた。九州探題を置いた幕府だが、反対勢力たちの存在もままならなかった。牧宮(懐良)が率いる征西軍(南朝)もその反対勢力の一つだ。

九州を統一し、足利幕府とはまったく違う新しい国を造ること。それが懐良の夢だった。九州入りするまでの展開は比較的緩やかだが、後に無双の強さを誇る武将へと成長する菊地武光の登場により物語が加速する。

一色範氏らを始めとする探題勢力を悉く打ち破る征西軍。しかし、少弐頼尚が幾度と無く征西軍に立ちはだかった。この武将、尊氏のもとで転戦を重ね、尊氏が九州落ちした時にはほとんど一人で尊氏を支えたという歴戦の男だった。菊地武光が率いる騎馬隊と少弐頼尚との闘いには見所が多い。そして最大の見せ場は最後にやってくる。敗れ続けて後が無くなった九州探題が送り込んだのが今川了俊。探題側の最後の切り札と言って良い。この了俊との闘いからエンディングまでには、著者が描く男の世界が止めど無く広がっていた。

本書を通して最も印象に残ったのは、夢を追い続ける登場人物たちの葛藤だ。懐良や武光を実際に突き動かしたものが本当に夢だったのかどうかはわからない。しかし、志を持った人間が南北朝時代にいたと思えただけでも価値ある作品と言えよう。欲と欲とのぶつかり合いだなどという表現では、本書を語れない。

読了: 2004年2月