功利主義者の読書術/佐藤優

実用書やビジネス書からではなく、古典や小説、芸能人本などから実利性を読み取るための読書術。いくつかの章に分かれており、古今東西の作品がそれぞれの章に収まっている。

娯楽のための読書とは違った読み方を説いているとは言え、引き合いに出す作品が冒頭から「資本論」だ。一般読者にはハードルが高いが、断片的に理解できそうな箇所を拾える事が救いだ。「資本主義の本質がよくわかる」という理由で挙げている伊藤潤二氏著の「うずまき」は、触りとして読んでみようかという気になった。 続きを読む

読書について/小林秀雄

16編に及ぶ著者の読書論と1編の対談から成る。

著者自身の学生時代の読書法から始まり、若い頃の濫読が後年の読書生活を支えるであろうことが語られる。また、ある作家の全集を読むことも読者に勧めている。作家のより深いところを手探りする精神作業によって、書物の向こうに人を見ることの重要性を説いているのだ。 続きを読む

小林秀雄対話集

坂口安吾、三島由紀夫、江藤淳など、当代きっての文学者たちを相手に小林秀雄が忌憚の無い対話を繰り広げる。

冒頭は坂口安吾。骨董、安吾の作品「白痴」、恋愛、画家などについて話題が及ぶが、社交辞令を欠いた二人の口調はどこまでもストレートだ。しばしば意見がぶつかり合うが、それでもお互いが歩み寄らないところが読んでいて気持ちがいい。これは相手に話を合わせる商談ではなく、またその必要も無い損得抜きの本音トークなのだと改めて読者は認識する。 続きを読む

チェルノブイリ診療記/菅谷昭

チェルノブイリ原発事故から10年後のベラルーシ。日本の甲状腺外科医が綴った現地での医療活動記録だ。

原発事故の影響で甲状腺に異常が出やすい少年少女が主な診療対象だが、その医療環境が劣悪だ。切れ味の鈍いメス、虫が飛び入ってくるような手術室、「手術の質よりこなした数」という考え方、術式の古さなど、経済の悪化でにわかには改善しがたい現実が著者を悩ませる。 続きを読む

モオツァルト・無常という事/小林秀雄

モーツァルトがいかに天才的な音楽家であったか。ゲーテ、トルストイ、スタンダール、シェイクスピア等、種類の違う様々な芸術家たちを登場させながらモーツァルトが論じられている。

当然ながら著者自身が傾倒していた時期があったようだが、モーツァルトの曲から感じ取るものが常人とは違う。その世界で生きている人間や趣味が高じている人、あるいはもともとその手のセンスがある人ならまだしも、私には単なる心地よい「音」でしかない。その根底に「かなしさ」(tristesse、もしくはtristesse allante)を見出せるのは単に耳の問題だけではなさそうだ。 続きを読む