実用書やビジネス書からではなく、古典や小説、芸能人本などから実利性を読み取るための読書術。いくつかの章に分かれており、古今東西の作品がそれぞれの章に収まっている。
娯楽のための読書とは違った読み方を説いているとは言え、引き合いに出す作品が冒頭から「資本論」だ。一般読者にはハードルが高いが、断片的に理解できそうな箇所を拾える事が救いだ。「資本主義の本質がよくわかる」という理由で挙げている伊藤潤二氏著の「うずまき」は、触りとして読んでみようかという気になった。
論戦に勝つために参考になる本として著者が挙げているのが文学作品や芸能人本だ。この章で挙げられている「山椒魚戦争」という作品だが、私はある種の娯楽作品としてしか読むことが出来なかったが、著者には論戦に勝つために必要な技術を読み取れていたらしい。何かを欲して読む時には感度が上がるのかも知れない。
恋愛術、交渉術、不況についてなども同様に、著者が勧める作品を挙げながらページが進んで行くが、これらもやはり、著者が「功利主義的」にそれぞれの作品で著者が重要と思うことを抽出したものであり、それらを鵜呑みに読んでしまうとやはり実用書やビジネス書を読んでいるのと変わらないことになってしまう。何かを身につけたいならば、ある程度自分のテーマを持って自分で読み解いていく事が重要なのだろうとも思った。
沖縄問題、ロシア、日本の閉塞状況などについても様々な作品を参照しながら著者の持論が展開されているが、やはりそれらを自らの「功利主義」に沿って読んで行くにはもう少し基本的な勉強が必要だと感じた。
人間の本性についての章では、レイモンド・チャンドラーの作品が挙げられているが、その内容から何らかの本質を読み解くという本書の命題よりも、訳者の巧拙について話が興味深い。「ロング・グッドバイ」でのいくつかのシーンを、清水俊二氏訳と村上春樹訳を対比させているのだ。ほんのちょっとした違いだが、その違いで印象も随分と変わる。著者の「神は細部に宿り給う」の一言が印象的だ。
全編を通して、知りたい事を直接教えてくれるような本を読むよりも、まるで畑が違うような作品から自分に必要な本質を読み取る事の重要さを教えてくれる一冊だが、実はそういった著者の意向とは違うところでも色々と勉強になったのも事実だ。詭弁かもしれないが、それこそが、私にとっての功利主義的な読書であったのかも知れない。
読了:2013年11月