読書について/小林秀雄

16編に及ぶ著者の読書論と1編の対談から成る。

著者自身の学生時代の読書法から始まり、若い頃の濫読が後年の読書生活を支えるであろうことが語られる。また、ある作家の全集を読むことも読者に勧めている。作家のより深いところを手探りする精神作業によって、書物の向こうに人を見ることの重要性を説いているのだ。

私にも、個人的に好きな作家が居るには居るが、やはり読む作品は選んでしまう。その状態で好きな作家たちの性格などを作品の向こうに見えているかと自問すると、答えは難しい。

読む事に関する助言として、

1、つねに一流の作品のみを読め

2、一流作品は例外なく難解なものと知れ

3、一流作品の影響を恐れるな

4、若し或る名作家を択んだら彼の全集を読め

5、小説を小説だと思って読むな

と著者は挙げている。「1」は目を養うという意味で、「2」は一度読んだからといって分かったような顔をするなと言っているように思える。「3」は心を掻き回されてその苦しみを自分の血肉にしろ、ということか。「4」は世間の評判よりも自分が発見する作家の思想に注目すべきと受け取れるし、「5」は巧拙や派閥にとらわれない正直な心で読むべきだと受け取れる。

さらに文章を鑑賞する事については、文章の専門性を恐れず、万人共通の理性よりもそれぞれの感性で素直に味わう事の大切さを説き、「読書の工夫」の章では読み方が幼いから年とともに小説から離れてしまうといった旨の主張もある。“自分を失う一種の刺戟のようなもの”として読むのではなく、“読書も亦実人生の経験と同じく真実な経験”として読むべきだ、と。

タイトル通りの内容について書かれているのは前半部ぐらいだが、後半部に見る余談的な章から、芸術、批評、文化についての章、最後の教養についての対談と、やはり読書家よりも批評家としての顔が目立つ。

なるほど小林秀雄は難しい。しかし前述したように、頭で分かろうとせず、自分の感性で著者の作品に触れてみようと思いながら読むと、自分だけの楽しみが見出せるのだ。著者が、自分の博識をひけらかす風でも読者に押し付ける風でもなく、読書生活に助言をしているというところが却って凄みを感じてしまう一冊だ。

読了:2013年11月