坂口安吾、三島由紀夫、江藤淳など、当代きっての文学者たちを相手に小林秀雄が忌憚の無い対話を繰り広げる。
冒頭は坂口安吾。骨董、安吾の作品「白痴」、恋愛、画家などについて話題が及ぶが、社交辞令を欠いた二人の口調はどこまでもストレートだ。しばしば意見がぶつかり合うが、それでもお互いが歩み寄らないところが読んでいて気持ちがいい。これは相手に話を合わせる商談ではなく、またその必要も無い損得抜きの本音トークなのだと改めて読者は認識する。
三島由紀夫との対話は金閣寺に始まり、次第に話は美の追求について展開されていく。その中で、「フォーム」という言葉が良く出てくるが、その語群が観念的に自分の中でつながってくると、二人の対話の真意に触れる事が出来ているような気がして気持ちが高揚してくる。
江藤淳との対話でも引き続き「美」が語られているが、その対象は主に書画骨董。表面的な鑑賞だけで済ませてしまうかどうかの問題は、社会的な人間付き合いの深浅にもつながるという、いかにも骨董好きな小林秀雄らしい見解が興味深い。絵付けの見事さだけでなく、やがては土の色にも関心を持つようになるということだ。
全12編、相手によって多少トーンの変化はあるものの、概ね小林秀雄の対話の姿勢は冒頭のそれと変わらない。安吾の他、三島由紀夫、江藤淳などは何かにつけ見知った名だが、それ以外の相手との対談にも新たな気付き、発見が尽きない歓心の一冊だ。
読了:2013年3月