疾走の夏/北方謙三

作家、北方謙三が一人のカメラマンを伴い、シカゴ~ニューオリンズ間ロングドライビングの旅に出た。本書はその時のことを綴ったエッセイ集だ。

当時、著者は免許を取りたてだったらしく、運転の動作一つ一つに対する彼の新鮮な喜びや苦悩(?)などについてを語ったくだりを読むと、私自身の初心者ドライバー時代が思い起こされ思わず笑みがこぼれた。著者の不慣れな運転に半ば脅える同乗カメラマンとの掛け合いトークもまた然り。また、著者はただ走ることを己自身の人生に例えている節が見受けられたが、それには私の心のどこか奥深くに訴えるものを感じた。

文体は全体に何処となく広がるハードボイルドだ。
「ハードボイルド小説は、痩我慢の小説である。顔で笑って心で泣いて、というやつだ。」

と、著者は述べるが、私はハードボイルド小説のそんな所がたまらなく好きだ。

最後に、最も印象に残ったくだりをひとつ、以下に紹介したい。
「才能など、人並みのものしかなかった。ぼくが小説家として生活しはじめたのは、逆に自分がダイアモンドでも金でもないと自覚したときからだ。石ころ、ただの石ころだが、磨けば結構光る。その輝きでいいと思った。」(本文より)
あるいは、これも著者一流の「痩我慢」なのかもしれない。

読了: 2002年11月