三陸海岸大津波/吉村昭

明治29年、昭和8年、昭和35年の三度に渡り三陸沿岸を襲った大津波。当時の記録や体験者の話などから大津波の前兆や惨状などが克明に読み取れる取材記録だ。

津波の前兆の一つとして地震が挙げられるのは良く分かるのだが、本書で述べられているそれはさらに詳細だ。印象に残った例で言えば、例年にない大量の漁獲高や井戸水の渇水・汚濁、急速な干潮、津波直前・直後に聞こえる砲撃音に似た大音響などだ。この作品を読んでいる以上、その後の大津波が当然予想される。それだけに、各市町村の事例を述べられれば述べられる程そんな前兆が不気味に思える。 続きを読む

高熱隧道/吉村昭

昭和11年8月、富山県黒部峡谷で着工された発電所電源開発工事は、大自然の脅威と闘いながらの難工事となった。多くの困難に直面しながらもその工事に立ち向かった人々を描いた小説。

トンネル工事を続ける人夫たちを最も苦しめたものは、摂氏165度にもなる岩盤の温度だった。坑内温度も高いところで60度を超えていた。坑内にいるだけでも火傷を負う。熱気を逃がすために堅坑を掘り下げる、人夫たちの体温を下げるために谷川から吸い上げた冷水をかける、等さまざまな工夫を凝らし工事を続けた。しかし、安全基準とは程遠い環境での作業は様々な事故を招いた。雪崩による宿舎の崩壊や、高熱が招いたダイナマイトの自然発火など、人夫たちの犠牲者が相次いだ。 続きを読む

天に遊ぶ/吉村昭

計21編からなる短編集。1編あたりのページ数は10ページ以内と読みやすく出来ている。なかには著者自身の取材体験や、自身のエッセイ集で扱った題材を基に描いたと思われる作品もある。他には男女の微妙な心理を描いた(あるいは読者に巧みに感じ取らせる)作品もいくつか。

歴史小説やノンフィクションなど、取材調査の上に成り立っている作品を読む時は、自然と肩に力が入りがちだ。しかし、本書は比較的気楽に読める作品といって良い。ちょっとしたリフレッシュが必要なときには良いかも。 続きを読む

破獄/吉村昭

昭和11年から22年の間に4度の脱獄を実行した主人公。緻密な頭脳と超人的な体力を併せ持ち、その脱獄の手口は大胆且つ繊細。

クライマックスは3度めに収容された網走刑務所での脱獄劇か。網走刑務所は過去に一度も脱獄の例がなく、また建物の造りも堅牢だった。そこに収容された主人公がいかなる手段で脱獄を試みるのか。看守たちを手玉に取る主人公の言動から目が離せなかった。 続きを読む