変なおじさん 【完全版】/志村けん

「8時だョ!全員集合」、「バカ殿様」などに代表される人気コメディアン、志村けんが自らの半生を語ったエッセイ集。

彼の生い立ち、ドリフの付き人時代、ドリフの正式メンバー時代や自分の番組の話など。多くの自伝的エッセイに見られるように、その内容はひとつのサクセス・ストーリーを思わせる。

著者自身も述べているが、彼の(あるいはドリフの)笑いは計算されたシナリオの上に成り立った一つの芝居だ。番組の構成はもちろん、ひとつのコントに対しても実に細かに設定を行う。舞台やスタジオ、コントのシチュエーション、役柄、共演者の選び方等など。ディテールに対するこだわりが、より迫真の雰囲気を醸し出し、笑いの要素を生み出しているようだ。

著者は実に良く音楽を聴く。本書を読んでひとつ意外に思ったことのひとつだ。「聞き方」に対するこだわりのようなものを持っているように思えた。笑いにはリズムが大切だ、と著者は述べるが、著者のコントに見られる「間」の巧さは、音楽好きであることと深い関係があるのだろう。そして本書の中で最も印象に残ったのは、著者がマンネリの威力を高く評価しているくだりだ。マンネリ化するには当然それだけモノが続かなければならないが、多くはマンネリ化する前に終わってしまう。客(視聴者)にマンネリ通りのオチを期待させるに至るまでは確かに大変だろう。しかし、一度定着すれば期待通りのオチで笑わせることも出来るし、逆にお待ちかねの期待を裏切って笑いをとることも出来るということだ。

私が幼い頃は何も考えずに、ただテレビ画面に彼が映し出されただけでさえもげらげら笑っていたものだったが、本書で述べられた舞台裏的な話を読むと、コミカルな要素よりもむしろ強烈な職人気質を感じた。

読了: 2003年1月