吉良の言い分/岳真也

松の廊下事件や吉良邸討入りなど、憎まれっ放しの吉良上野介だが、本書の主役はその悪役とされる吉良上野介だ。タイトルから想像するほど吉良を弁護しているわけではないが、敵対関係となってしまった赤穂藩との感情のすれ違いが読者に伝わって来る。

勅使・院使を接待する「御馳走人」を任された赤穂藩領主・浅野長矩。その浅野に饗応の礼儀作法を教えるのが吉良の役目だった。吉良は浅野に恥をかかせまいと最大限の配慮を施したが、浅野に吉良の善意は伝わらず、逆に浅野は吉良に対して怨恨を募らせた。 続きを読む

堀部安兵衛/池波正太郎

高田馬場の決闘で一躍その名を知られ、また吉良邸に討ち入った赤穂浪士の中心人物だ。

しかしこの男、少年時代より目を覆いたくなるような不運を潜り抜けている。父の切腹を目の当りにし、その切腹に追い込んだ男を斬り脱藩。逃亡生活の中で命を救ってくれた男には自分の女を寝取られ、その後は情欲に突き動かされたような放浪生活を送る。安兵衛の余りの情け無さが気の毒に思えてしまうのだが、一方で損得抜きで行動を起こす主人公に対する羨望をも抱く。 続きを読む

四十七人の刺客/池宮彰一郎

「—–随分と減ったものだ。」
吉良邸討ち入り前夜、首謀者の大石内蔵助は脱落者が続出した組の再編成に腐心していた。最後に残った浪士は四十七人。うち、戦力と成り得るのは30人程だった。そして吉良邸を守る相手の数は屈強の百余名だ。

大石内蔵助は敵方に対し巧みに謀略を仕掛け続けたが、実際に討ち入りが始まるのは残りの80ページあたりからだ。そこに至るまでの諜報戦が本書の大半を占める。 続きを読む