吉田松陰/山岡荘八

幕末の英雄の一人に数えられるであろう吉田松陰。本書は松陰の母・お滝が杉家(松陰の生家)に嫁ぐくだりから物語が始まる。

その杉家だが、お滝が嫁いだ当初は眼を覆いたくなるばかりの不幸続きで陰気に満ちていた。しかしお滝は、杉家に明るさを取り戻さんと奮闘するのだ。夫・百合之助(松陰の父)もまた、背負った不幸に背を向けずに毎日を勤勉に生き抜いていた。その二人の直向な姿が感動的であり、崇高ささえ覚える。松陰はそんな家庭に生まれた。 続きを読む

楠木正成/北方謙三

北条氏の権力が衰え始めた鎌倉時代の後半、反幕分子の一つに悪党の存在があった。その悪党たちの間で最も良く知られているのが河内の悪党、楠木正成であろう。

武装はするが武士とは戦わない。むしろ荘園内での小規模な戦闘が多かった。正成は自らの軍を調練し、商いで財を成すことで楠木一党を成長させ、次第に勢力を拡大していった。 続きを読む

松本清張の日本史探訪

三世紀のヤマタイ国から江戸時代後期の政治家まで。タイトルが示す通り、日本の歴史を彩った人物や出来事についての対談集。

最も読み易かったのが戦国期についての対談だ。細川幽斎、本能寺の変、豊臣秀吉などについて語られた個所はゆとりを持って読めた。彼らは以前に読んだ小説にも度々登場していたからだ。中でも、海音寺潮五郎との対談「豊臣秀吉」が興味深い。史上、最も人気が高いと言って良い豊臣秀吉についての対談相手に、味のある歴史作家を持ってきたあたりが歴史・時代小説ファンの心をくすぐる。 続きを読む

ユーゴスラヴィア現代史/柴 宜弘

「「第二次大戦後のユーゴは、「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」という表現に端的に示される、複合的な国家であった。」」(本文より)

タイトルに「現代史」とあるが、実際には数世紀前からの近隣諸国を含むバルカン半島の歴史が述べられている。ユーゴ建国までの流れや建国後の問題、そして内戦勃発への複雑ないきさつから連邦解体まで。前述した端的な表現からある程度想像できるように、紛争の種があちこちに存在していた。 続きを読む

道誉なり/北方謙三

室町時代の「ばさら」、佐々木道誉が主人公。その「ばさら」というのがどう言う者を指しているか良くわからないが、作品中の道誉の言葉を借りれば、己が生を毀すことのみを考えて生きる男をそう呼ぶらしい。しかし、そうかと言って単純に滅びの美学を追求していたわけでもなさそうだ。

作品中、主人公が最も多く交流するのが足利尊氏だ。尊氏は天下をほぼ掌握していたが、道誉はそんな尊氏を歯牙にもかけていなかった。道誉には、権力者など何程の者かと思う節があるようだ。 続きを読む