汝ふたたび故郷へ帰れず/飯嶋和一

「「「赤コーナー、シモムラ所属、日本ミドル級二位新田駿一。…戦績、十八戦十六勝二敗。十六勝のうち六つのノックアウト勝ちが含まれています」」

お義理の拍手がパラパラと沸いた。十八戦十六勝二敗……これが足掛け五年、毎日毎日神経を擦り減らし、走り続けたすべての結果らしかった。思わず笑った。」本文より。 続きを読む

ファウスト/ゲーテ/高橋義孝 訳

俗に言う純文学だろうか。

話の大半が非常に抽象的であるためか、話の流れがつかみにくく、感想も抽象的である。わかったような、わかっていないような。両手でつかんだものが指の間から擦り抜けていくような・・・ゲーテが著した「若きウェルテルの悩み」のほうがまだ内容を追いかけるのが楽だった。 続きを読む

ブラジルから来た少年/アイラ・レヴィン/小倉多加志 訳

SFサスペンスとでもいうのだろうか。以下、ネタバレを承知で内容に触れますので御了承下さい。

ナチの残党・メンゲレはヒトラーのクローン化に成功していた。生物学的なうんちくをクリアし、最終的に94人の複製人間を誕生させた。無論、彼らの遺伝子構造はヒトラーのそれと同一無二である。メンゲレの野望は複製化によってヒトラーを復活させ再びドイツ帝国を築くことだった。黒人、アジア人、ユダヤ人等を劣等民族と見下し、その一元的な思想で完璧なドイツ人誕生を目指すメンゲレの言動にはいささかシラけてしまう。 続きを読む

プラハの春/春江一也

華のプラハがワルシャワ条約軍の軍事介入により、一転して悲鳴の飛び交う街へと変貌した。

1968年8月にチェコスロバキアで起こった政治改革運動を描いた小説。当時、著者は在チェコの担当官だった。在勤当時の体験がストーリーのもとになっているのだろう。 続きを読む

ベルリンの秋/春江一也

前作 、「プラハの春」の続編。史実に基づいたフィクションです。

プラハの春に遭遇した主人公、堀江亮介が事件以後東京に戻ってきた。チェコでの実績を買われ今度は東ドイツへ赴任した。普段は乗用車を使う堀江だが、たまたま電車を使い、そして気まぐれで途中下車した。そこで亮介が見たものは、カテリーナの忘れ形見シルビアだった。このあたりは完全な恋愛小説。 続きを読む