汝ふたたび故郷へ帰れず/飯嶋和一

「「「赤コーナー、シモムラ所属、日本ミドル級二位新田駿一。…戦績、十八戦十六勝二敗。十六勝のうち六つのノックアウト勝ちが含まれています」」

お義理の拍手がパラパラと沸いた。十八戦十六勝二敗……これが足掛け五年、毎日毎日神経を擦り減らし、走り続けたすべての結果らしかった。思わず笑った。」本文より。

素質に恵まれたボクサーが栄光を目前にして挫折。日本ミドル級二位、新田駿一がリングを降りた。故郷へ帰り、ボクシングを忘れたはずの新田だったが、会長、下村の死がふたたび新田を駆り立てた。復活をかけトレーニングに励むが、二年間のブランクに不安が募る。しかし、凄腕のスタッフたちが、そんな新田の不安を解消する。

久々に純粋な感動を味わった。物語の前半における主人公の性格がちょっと自嘲気味だが、私個人はそういうのが好きだったりする。物語の後半はスポ根です。スポ根はちょっとクサいくらいがちょうどいい。人間が歪み始めたら、こういう本を読んで自分を軌道修正するのも悪くない。著者の作品、「神無き月十番目の夜」を読んでその内容に衝撃を受けて以来、ずっと彼の作品を探しつづけてきたのだが、あきらめかけたつい最近、近所の図書館で発見した。本書は私の期待に見事応えてくれた一冊であった。

読了:2000年 3月