光る壁画/吉村昭

戦後、世界で初めて胃カメラを開発した日本人技師を描いた小説。

カメラ会社に入社した曾根菊男が胃カメラの研究に取り掛かる。誰もが非現実的な話だとしてまともに取り合わないが、ごく数人の医師や技術者が菊男の研究に興味を示し始めた。

食道を通すゴム管、ゴム管の先に取りつけるレンズ、フィルムの巻き取り、胃壁を照らすランプ、胃壁とレンズの距離感など。様々な問題が明るみになり、菊男らはその都度に試行錯誤を繰り返すが、結果を出せない菊男に対し、次第に会社からの反応が冷たくなってくる。研究打ちきりの決定を恐れながら、徹夜の研究を繰り返しようやく犬を使っての動物実験に成功。

そしていよいよ人体での実用性を試す時がきた。実験での問題をある程度クリアし、研究内容を学会で発表。学会後、さらに研究を重ねやがて販売に至るが、取引先からの苦情が絶えなかった。製品に当たり外れが多く、耐久性にも問題があったのだ。その後さらに研究を重ね、完成度が高い胃カメラを完成させた。会社側から祝福された菊男は自分の努力を振り返り目頭を熱くした。

研究、研究、そしてまた研究。本書を読みすすめていく過程で、私はいつのまにか実験の成功を願っていた。

読了:2000年 6月