神無き月十番目の夜/飯嶋和一

大虐殺によって一つの村が消えた。

江戸期初め,重税に喘ぐ常陸の山里、小生瀬村の農民達の苦悩を描いた作品。やがて彼らの不満が百姓一揆となって爆発するが、そんな彼らの細やかな心情がリアルに描かれていた。

一揆に至るまでの精神的な過程が手に取るように読み手に伝わる。しかし小説全体の雰囲気はどことなく暗くて重苦しかった。それが当時の農民達の心情だったのかも知れない。

以下、酷いシーンを一部抜粋。

検地役人が収穫の時期直前に村に訪れ、実りを待つばかりの水田を荒らしまくる。

「誰が何と言おうと、美しく稲穂が実る様は、吉弥の能力、人格のすべての証明に外ならなかった。その田が今、開花を待つばかりになって、目の前で踏み潰されていた。」本文より

読了:1998年 1月