始祖鳥記/飯嶋和一

ひたすら空を飛ぶことを夢見た男がいた。巨大な凧を作り自ら空を舞い、鳥の鳴き声を真似て幕府の悪政を批判する幸吉。人々は伝説の怪鳥が現われたと畏怖の念を抱くと同時に、日ごろの鬱憤を晴らす思いをも抱いていた。

しかし、やがて役人に検められ遠隔地へ追放される。全てを忘れ新しい生活を得た幸吉だったが、ふとしたことから凧作りを再開することになった。幸吉は一心不乱に凧作りに没頭し、やがて忘れかけていた飛ぶことへの情熱が甦る。

鳥を捕まえては羽と胴体の比重を研究し、飛行原理を追及する幸吉。幸吉は試行錯誤を繰り返した。

一方、商人の伊兵衛はごまかしの無い高純度の塩を作り、消費者たちの評判になった。粗悪な塩を扱う塩問屋仲間と徹底抗戦を決め込むが、彼らは幕府と深く結びついていた。伊兵衛の頭にあるのは,単なる店の儲けだけではなく、塩の産地としての地域が生き残ることであり、さらに、悪政に守られた独占売買を打ち毀すことだった。しかし、他の塩問屋仲間はそれをわかっていない。伊兵衛は孤軍奮闘を続けた。

武将が登場しない歴史小説がこれほど面白いものなのか。私の心をとらえ物語りに引きこんだものは登場人物の知名度ではなく、彼らの熱い志だった。

読了: 2000年 5月